当初は4日間かけて南アルプスのどこかを縦走する積もりだったが休みが取れなくなって変更。テント泊の荷物を用意して車に載せて、金曜の夕方に会社を出て甲府方面に向かう。途中で晩飯を済ませて芦安の市営駐車場に車を停めて就寝。
朝は4:50起床。トイレに車から出ると夕べは空いていた駐車場は車で埋まっている。チンタラ準備をする。と言っても脱いだままのズボンを穿いてサンダルから登山靴に履き替えるだけ。荷物も夕べ買っておいた水をボトルに移して終わり。
急げばもう1本早い便に乗れたな、と思いながら、芦安5:40発のバスに乗る。1時間ほどで広河原、北沢峠往きに乗り換える。土曜日でも中途半端な週で空いていると思いきや、人は多い。が、よく見ると渓流釣りや沢登りの人が多くて少し安心する。
北沢峠には7:15に着いた。ここでもまたチンタラ準備。靴紐を締めてトイレに行き、他の人たちが出発していくのを見送る。ボーっとしていたら次のバスが来て人がゾロゾロ降りてきた。流石にこの人たちまで見送りたくないので慌てて歩き始める。
7:30北沢峠スタート。リュックに水を1.5l入れて14kg。
甲斐駒に登るには、双児山を通って頂上に向けてほぼ直進していくコースと、一度南側に下って仙水峠を廻って駒津峰で双児山コースに合流するコースがある。調べるとほとんどにおいて双児山コースは急だから下りに使って上りは仙水コースを薦めている。が、今回はトレーニングを兼ねていること、天気が崩れそうでノンビリ周遊などしてられんこと、そもそもキツイ山ではなさそうなことから、双児山に向かって真っ直ぐ進むことにした。
駒津峠までは中くらいの勾配が続き、丁度良い山道。歩き易いが変化もあり、登山をしている気になれる。特にキツイ箇所もなかったが、駒津峠を過ぎて少しすると「六方石」という巨大な岩が出てくる。この辺りから岩登りが増えてくる。
かなり急な岩の斜面の登り口で道が“直登”と“マキミチ”に分かれる。高い場所は基本的に苦手なのでしばらく迷ったが、横に逸れるのも不本意なので“直登”を選択。
この道は結構大変だった。急斜面の岩稜を登っていくのだが、一つ一つの岩がかなり大きく、登るにも足の置き場に困る。でも滑落するような場所はなくて適度にスリリングで楽しい。
アツコチにホシガラスが飛んでいる。ハイマツの松ボックリを食った後が所々にある。こんなに沢山のホシガラスを見たのは初めて。
この岩稜を進んでいたら少し先でバスで同乗していた女性の二人連れが岩を越えるのに苦労しているのが見えてきた。バスで前の席に座っていたのだが、二人とも3000m級の山に行く格好ではない。一人の靴は軽めの登山靴のようだがズボンは街中で穿くようなカーキ色の綿パンみたいの。(この人、40才位と思っていたがあとで聞いたら30才のお子さんがいるとのこと。物凄く若い!)もう一人(30才くらいか)に至ってはランニングシューズに陸上用の黒っぽいトレパン。上は二人とも普通の白いTシャツ。近くの美人で上品な若奥さんがテニススクールにでも行くような感じ。二人とも髪は短めで活発そうにも見えるが細くてスタイル良く、とても山に来るような感じではない。バスの中で“ハイキングの積もりで来たんだろうな。怪我とかしなければ良いけど。”などと思っていた。
その二人が前で岩を乗越えるのにジタバタしてて、“やっぱりな。”と思った。が、それにしては足が早い。登山口を出たのは10分くらいの差。結構これでも足は速いほうで、バスでの同乗者などは最後に出発しても早いうちに殆ど抜いてしまうのがいつものこと。それがここまで来てやっと追いついた。じきに大岩でモタモタしている二人に追いついてしまい手前で待つ。乗越えて岩の向こうに姿が消えたところでこちらも進んで岩を乗越える。しかしなんと二人はかなり先を歩いている。で、また岩で追いついて、を繰り返す。確かに岩登りはヘタッピ。腰が引けてて危なっかしい。が、それ以外は非常に足が速い。なんだろ、この人たち。
岩登りが一段楽したところで二人が休憩している横を過ぎて間近に迫った頂上へ足を進める。カーキ綿パン女史は地面に座って流石に息が乱れている。と思ったら、その横に立っている黒トレパン女史は平気な顔をして息も乱れていない様子。
じきに頂上に着いた。10:50。周囲の山には雲がかかっていて展望はなし。が、甲斐駒の山頂は悪くない天気。気分良し。が、ガスが上がってきてるし天気予報では大荒れになるそうなので、早く降りようかな。
そこに、先の若奥様風の不思議な二人がもう追いついてきた。やはり速い。
話をしていたらカーキ麺パン女史が、急いで降りたいのだが道が不安だ、と言う。地図も落としてしまったらしい。よく見ると黒トレパン女史に至っては手袋もしていない。これはダメだ、怪我でもされたら適わない。これも何かの縁でしょう。仕方ないから下りの道を誘導していこう。
11時、急ぐなら速めのペースで降りるから無理しないで付いて来るように、と二人に言って下り始める。実はここ辺りまでは良かった。岩場があったから、その度にモタモタしている。が、それ以外は非常に速い。あおられる。何となく話をしていたら、なんと、黒トレパン女史は数年前に富士登山競走で優勝したそうだ。思わず“えぇっ!?!?”と叫んでしまった。で、片やカーキ麺パン女史は100kmウルトラマラソンに出ていて、阿蘇や秋田、サロマ湖などで優勝しているらしい。言葉が出ない。どうしよう。
富士登山競走もウルトラマラソンも、知っている。出ることに憧れている。が、かなり遠い目標。秩父の御岳クロカンも出ようと思ったが断念、フルマラソンですら完走が目標。富士登山やウルマラのタイムなど聞いても判らないのでフルマラソンの持ちタイムを聞いたら黒トレパンが“大したことないんです。3時間くらいです。”と恥ずかしそうに仰る。凄い。今年の東京マラソンで、グロスで4時間1分だったがネットで3時間59分だったので、聞かれると“4時間きれました!”などと半分嘘を言っているのとはレベルが違う。そりゃぁ速いはずだ。これくらいじゃ散歩のはずだ。聞くと登山は本当に素人のようで、岩登りが遅いのも納得。
そう知ってしまったら、後が大変。非常に厳しく過酷な下りが続いた。そりゃぁそうだ。岩がなくなったら後は追い立てられるように降りていくしかない。この二人、本当に速い。頑張って降りながら、自分を責める。格好で判断してはイカン。甘く見ちゃイカン。アマチュアのトップアスリートに対して余計な心配をしたり、怪我されると困るから誘導してあげよう、なんて、大きな態度を取ってしまった。時々、木の根っ子などに躓いてくれるからどうにか先頭を歩けたが、後ろにこんな速い人がいたことはなくて、プレッシャーがきつかった。
でもこの二人、トップアスリートと思えないほど普通の優しいお姉さん達。今まで見たトップアスリートというような連中は、どこか切れていたりしたが、本当に良い人たち。でも話を聞いていると非常に言うことがハッキリしていて面白い。自分を持っている感じ。二人で走り仲間の人の話をしているのを聞いていたら、“練習をしないから怒られる”とか言っている。ムキになって練習するのは嫌だ、必死になってもつまらないのは嫌、楽しい程度にやる、などと笑いながら話している。話だけ聞いていると、その辺に幾らでもいるような、適当にスポーツしてる人。が、それで勝ち負けできる訳はない。気持ちの切り替えが上手いのか集中力の問題か。
いずれにせよ、自分のペースを守ることが大切なのは理解出来る。身近な話題の世間話のように話しているが、聞いていると深くて言葉が重い。
なんて(後から思ったら)呑気に下ってきて、ようやく北沢峠に着いた。しかし13時のバスを目指したのに着いたら13:10。アウト。かなり速かったが残念。
バス亭のベンチにリュックを降ろし、二人にお礼を言ってひとまず解散。次のバスは15:30。かなり待つが仕方がない。水を飲んで一休み。あとはここで昼寝でもしてノンビリと帰る(筈だった)。
少ししたら、先ほどの綿パン女史が来た。ここで2時間も待っていても仕方がない、早く帰りたいから歩いて広河原まで行って乗り合いタクシーを捕まえたい、タクシーは人数が多いほうが確実だと思うから一緒に行かないか、と。広河原まで10km。普通に歩いて2時間半。荷物は重い。が、そんなの、嫌も応もない。さっきまでの下りで、この二人の脚力にすっかり呑まれてしまった。何を言われても“yes”か“OK”しか答えられない。
3000m弱の山の往復10kmの登山路をこなした後に、10kmの林道を走ることになってしまった。
水は500cc残っているから、荷物は13kg。こんなの、生まれて初めて。
13:30、北沢峠をスタート。最初は2本のストックを推進力にして早や歩き。お二人は軽い小走り。時々歩きはするものの、段々と二人の小走りが速くなってくる。そのうちにこちらも小走りになる。13kg背負って登山靴で。
これはかなりキツイ。荷物の大きさが違うとは言え、二人は平気な顔をして走っている。登りになると綿パン女史が歩いてくれるから助かるが、トレパン女史はここまで走っても全く息が乱れない。“私はいつもこうなんです。”と済まなさそうに言うのが、街でなら華奢な若奥様の言葉としてこちらもドキドキしたかもしれないが、この状況では・・・。恐るべきアスリート!
走るのは辛い。黙ってモクモクと走らないとバテる。と思いながら、この人たちとの会話が面白くて喋りながら走る。かなり遅いが自分なりにはひたすら全力で走る。
走り始めて1時間半、広河原のゲートがやっと見えてきた。時間は14:57、次のバスは15;30。これでやっと歩ける、とホッとしたとことろで、ゲートの近くにいたオジサンが“15時のバスが出ちゃうよ”と。なにっ?15時のバスなんか知らない。と思うまもなく、二人のアスリートのペースが急に上がる。これは付いていけない。もう無理だ。ダメ、走れない。バスなんて乗れなくてもいいからもう歩こう、と思って“先に行って二人だけでも乗ってください!”と言ったら帰ってきた言葉が、“バスに待ってもらいますから、一緒に乗りましょう!”と。走りながら。
この人たち、本当にいい人だと思った。一つだけ問題なのは脚力が決定的に違うこと。
女の人にそう言われて、ここで諦めるのは格好が悪いので最後のスパート。生まれて初めて死ぬ気で走った。
どうにか間に合った。15時のバス。中に這い登って席に荷物を降ろしたが、椅子に座れずに肘掛に座る。ゼェゼェ、苦しいぃ・・・。汗も止まらない。でも嬉しい。これは頑張った。
16時に芦安の駐車場に無事、帰還。降りてみたら車を停めたのも第3駐車場で一緒だった。急いでいたようだったが、かなり(こちらは)頑張ったから時間に余裕が出来たのか、近くの温泉に入ると。良い温泉とのことで付いて行くことにした。車に乗って二人の車を追っかけると、本当にすぐ。第4駐車場の斜前の金山沢温泉。風呂に入る前に流石に最後のご挨拶。お礼を言ってお別れ。入った風呂も良かった。
帰りに甲府の南側のラーメン屋でツケメンを喰って東京へ。降りてきたときは天気が良かったが、高速に乗ってすぐに土砂降りになった。前が殆ど見えず怖い。テント張って仙丈ケ岳に登ることも考えたが、止めてよかった。
今回会ったお二人、素晴らしかった。アスリートとしては驚異的。なのに自然体で非常に感じの良い人たち。話をしても面白い、というか納得できて勉強になるような言葉が多く出てくる。
殆ど走りながらで、あまりユックリ話は出来なかったが、またどこかの山で会うことが出来たら色々と話を聞きたい。普段の練習の中身とか足を痛めたときの対処方法とか、特にレースの前の心の調整方法とか。大満足。
今回の山行、勝ちか負けかで判断したら、全面的敗北。全く歯が立たず徹底的にやられた感じ。でも気分の良い敗北だった。上には上がいる。もっと頑張って歩きましょ!
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